昨日2月28日のJR九州のニュースリリースに「鉄道株主優待券の内容変更のお知らせ」というものがありました。
次回発行分(2023年3月末に権利確定し2023年7月から利用できるもの)の株主優待券から従来の乗車券+特急券を5割引きにする方式から、管内1日限り有効のフリーきっぷタイプに移行するとのことでした。新幹線・特急列車を利用する場合は別途特急券の購入が必要です。
現新株主優待券のイメージを比較してみました。現行の株主優待券は必要事項を記入し、駅の窓口できっぷを購入するというJR東海や西日本と同じ仕組みです。
一方で新しい株主優待券はきっぷの購入は必要なく、左側の日付記入欄に日付の押印または記入することでそのまま利用できます。使用開始時に駅や車内で右半分を切り取って渡す仕組みのようです。
株主優待を管内1日限り有効のフリーきっぷタイプにするというのは初めて聞きました。きっぷの販売窓口はどんどん減らしていますから、きっぷに引き換えずに株主優待券をそのまま利用できるようにしたというのは、なるほど考えたなと思います。
正規料金が発生する新幹線や特急の乗車回数が少なく、かつ1日で長距離乗車する場合は新しい株主優待券が有利です。JR九州のHPの利用例に出ている博多~鹿児島中央間を日帰り往復した場合はまさにそれです。
確かにビジネス客はそういう使い方をするかもしれませんが、旅行客はそんな使い方はあまりしません。一行程で2日以上かけたり、新幹線や特急を何回か乗り継いで移動する場合には新しい株主優待券の方が不利で現行の株主優待の方がいいです。JR九州の見せ方はもっとも有利な例を呈示して、さも魅力的な制度に変わるように見せているように感じました。
個人的に毎年のようにJR九州の株主優待割引を利用していたんですが、いずれも2日以上かけて3列車以上の新幹線や特急列車を乗り継いでいました。新しい株主優待券は日数分の株主優待券が必要になる上に、乗る分だけの正規の特急料金が発生しますから、不利益変更でしかないです。
今回の変更のニュースリリースの頭書きには「当社株式に対する投資の魅力を更に高め、より多くの皆さまに中長期的に当社株式を所有いただくことを目的として」と書かれていますが、株主優待については万人にとって魅力的な制度変更ではないです。むしろ不利益変更と捉える人のほうが多いんじゃないでしょうか。
株主優待券の効力に制限を加えることについては昨年末の時点でJR西日本が先鞭をつけていました。なので、利用客に対する不利益変更を屁とも思わないJR九州が追随することは十分考えられました。ただ、こういう形に変えてくるとは思いませんでした。
コロナ禍以降2年ちょっとの間でJR九州で実施されたきっぷや営業制度に関する利用客の不利益変更の一覧です。
実施内容 | 発表日 | 実施日 |
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2枚きっぷの発売終了【51区間のうち30区間】 | 2020/12/24 | 2021/3/31 |
九州新幹線2枚きっぷ・日帰り2枚きっぷの発売終了 | ||
ネットきっぷ・継続の2枚きっぷ値上げ | 2021/4/1 | |
九州管内完結の普通回数券発売終了 | 2021/4/20 | 2021/6/30 |
SUGOCA利用時のポイント(JRキューポ)還元終了 | ||
特急料金回数券の発売終了【9区間のうち8区間】 | 2021/6/25 | 2021/7/31 |
2枚きっぷの発売終了【21区間のうち3区間】 | ||
在来線特急料金・指定料金値上げ | 2021/8/3 | 2022/4/1 |
B&Sみやざき2枚きっぷ発売終了【全区間】 | 2021/12/13 | 2022/3/31 |
(定期券)特急料金回数券値上げ【8区間】 | 2022/4/1 | |
博多~行橋間での車内発売特急料金導入 | ||
スーパー早特・スーパー早特21の発売終了【4区間】 | 2022/2/18 | 2022/3/31 |
e早特・WEB早特3の発売終了【8区間】 | ||
継続のスーパー早特・スーパー早特21値上げ【20区間】 | 2022/4/1 | |
九州ネットきっぷ・ネット早特7の発売終了【6区間】 | 2022/6/24 | |
JR西日本と跨る区間の普通回数券の発売終了 | 2022/6/29 | 2022/9/30 |
新幹線・特急のグリーン料金の値上げ | 2022/12/10 | 2023/4/1 |
株主優待券の効力変更 ←new! | 2023/2/28 | 2023/7/1 |
ここまで来ると凄まじいの一言です。並行して駅の無人化や営業時間の極端な短縮、列車の減便や車両の減車に座席の撤去まで実施していますから、鉄道事業の公共性なんて側面にはいっさい目もくれず、利益追求一直線な感です。
新しい株主優待券と同じ効力で、特急券別売でJR九州管内が3日間フリーで利用できる「ぐるっと九州きっぷ」は15,800円(窓口発売額)で発売されています。これを3で割った5,266.7円が新しい株主優待券の価値の最大値と言えます。
現行の株主優待券で5,266.7円以上得するように利用するのはさほど難しくないです。九州新幹線の指定席(通常期)で博多~鹿児島中央間の片道利用するだけで割引額は5,320円になりますから、制度変更によって株主優待券の価値は下がっています。
株主優待制度の内容で投資先を選ぶ人がいる一方で、株主優待制度よりも配当金や配当性向(純利益に対する配当金の割合)を重視して投資先を選ぶ人もいます。特に外国人投資家は株主優待を付与されたところで日本に来ないと使えないので、株主優待を充実させるぐらいならその分を配当に回せという声が出るぐらい後者の傾向が強いです。
意外なことにJR九州はコロナ禍の大赤字の中でも無配や減配に陥るどころか、1株当たり93円というコロナ禍前と同額の配当を継続しています。株主から見れば素晴らしく有能な経営陣です。今回の制度変更は配当での還元をより重視し、あえて株主優待券の価値を下げたのではないかと勘繰っています。配当を重視する株主にとっては「当社株式に対する投資の魅力」が高まったと言えるのかもしれません。